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スモールM&Aの売り手として、買い手企業を見極めるポイント

カテゴリ: スモールM&A 作成日:2023年10月19日(木)

スモールM&Aの売り手として、買い手企業を見極めるポイント

はじめに

M&Aとは、企業の合併や買収のことで、経営資源の再編や事業拡大などの目的で行われます。近年、日本では中小企業の後継者不足や競争力低下などの課題に対応するために、M&Aを検討するケースが増えています。

 

しかし、M&Aは単に企業を売却するだけではなく、売り手としても買い手としても、相手企業の特徴や条件をよく理解し、適切な判断をする必要があります。特に、売り手としては、自社の価値を高めるだけでなく、買い手企業を見極めることが重要です。

 

なぜなら、M&A成立後は、経営から退き、買い手企業の支援を受けないことを前提とする場合が多いからです。そのため、自社の事業や従業員が買い手企業によってどのように扱われるか、また自社が買い手企業にとってどのような価値を持つかを考える必要があります。

本記事では、中小企業のM&Aにおいて、売り手として買い手企業を見極めるポイントについて解説します。まずは、M&Aの基本概念を確認しましょう。

 

 

M&Aの基本概念の確認

M&Aとは、Merger(合併)とAcquisition(買収)の略語で、二つ以上の企業が一つになることを指します。合併は、二つ以上の企業が同等の立場で合体し、新たな法人を設立することです。買収は、一方の企業が他方の企業の株式や資産を取得し、支配権を握ることです。

 

M&Aには、売り手と買い手の二つの役割があります。売り手は、自社の株式や資産を譲渡する側で、買い手はそれらを取得する側です。売り手は、自社の価値を高く評価されるように努めます。買い手は、自社にとって有利な条件で取引を行います。

 

中小企業におけるM&Aは、大企業に比べて以下のような特徴があります。

 

  • 規模が小さく、情報が少ないため、評価や交渉が難しい
  • 資金力が乏しく、金融機関や専門家への依存度が高い
  • 経営者や従業員との関係性が深く、感情的な要素が強い
  • 事業承継や事業再生などのニーズが多い

 

中小企業のM&Aでは、以下のようなタイプがあります。

 

  • 事業承継型:後継者不足や高齢化などで事業を継続できない場合に、他の企業に事業を譲渡する
  • 事業再生型:経営危機や資金繰り難などで事業を存続できない場合に、他の企業に事業を売却する
  • 事業拡大型:新たな市場や顧客を開拓したり、新しい技術やサービスを取得したりするために、他の企業と合併や買収を行う

 

中小企業のM&Aは、自社の事業や従業員の将来に大きな影響を与える重要な経営判断です。そのため、買い手企業の選定は慎重に行う必要があります。

 

 

売り手が買い手企業を選定する重要性

中小企業のM&Aでは、売り手として自社の価値を高めることも大切ですが、それだけでは十分ではありません。自社に合った買い手企業を選定することも重要です。

 

適切な買収先を選定することで、以下のようなメリットがあります。

 

  • 自社の事業や従業員を引き継ぐことで、後継者不足や廃業リスクを回避できる
  • 買収価格や支払い方法などの条件が良くなる可能性が高まる
  • 買い手企業との協力関係を構築し、事業の成長や発展に貢献できる

 

一方、誤った選定をすると、以下のようなリスクがあります。

 

  • 自社の事業や従業員が維持されないかもしれない
  • 買収価格や支払い方法などの条件が悪くなる可能性が高まる
  • 買い手企業との対立や摩擦が生じ、事業の停滞や衰退につながるかもしれない

 

買い手企業の選定は、自社の事業や従業員に対する責任感とビジョンが必要です。では、具体的にどのようなポイントで買い手企業を見極めるべきでしょうか?次に見ていきましょう。

 

 

見極めポイント①:経営基盤と安定性

買い手企業を見極める最初のポイントは、経営基盤と安定性です。自社の事業や従業員を引き継ぐ買い手企業は、長期的に安定した経営ができることが望ましいです。そのため、以下のような点を確認する必要があります。

財務健全性:

買い手企業は、自社の財務状況や資金力を開示することが一般的です。売り手は、買い手企業の売上高や利益率、資産や負債、キャッシュフローなどをチェックしましょう。特に、負債比率や自己資本比率は、買い手企業の財務健全性を判断する重要な指標です。

買い手企業の信用度や信頼性:

買い手企業は、自社の経営陣や株主、取引先などの情報も開示することが一般的です。売り手は、買い手企業の経営陣の資質や背景、株主の構成や意向、取引先の評判や安定性などをチェックしましょう。特に、買い手企業が過去にM&Aを行った経験や実績があるかどうかは、重要なポイントです。

企業のビジョンや戦略の合致度:

買い手企業は、自社のビジョンや戦略、M&Aの目的や計画などを説明することが一般的です。売り手は、買い手企業のビジョンや戦略が自社と合致しているかどうかを判断しましょう。特に、買い手企業が自社の事業や従業員をどのように扱うか、また自社が買い手企業にとってどのような価値を持つかは、重要なポイントです。

 

経営基盤と安定性は、買い手企業を見極める基本的なポイントです。しかし、それだけでは十分ではありません。次に見るべきポイントは、市場性・成長性です。

 

 

見極めポイント②:市場性・成長性

買い手企業を見極める次のポイントは、市場性・成長性です。自社の事業や従業員を引き継ぐ買い手企業は、将来的に市場で競争力を持ち、成長していくことが望ましいです。そのため、以下のような点を確認する必要があります。

市場での地位やシェア:

買い手企業は、自社が展開する市場や業界における地位やシェアを開示することが一般的です。売り手は、買い手企業がどのような競合他社と戦っているか、また自社の事業が買い手企業の市場でどのような役割を果たすかをチェックしましょう。特に、買い手企業が市場でのリーダーかフォロワーかは、重要なポイントです。

未来の成長見込み:

買い手企業は、自社の将来の成長見込みや目標を開示することが一般的です。売り手は、買い手企業がどのような市場や顧客に対して成長を狙っているか、また自社の事業が買い手企業の成長にどのように貢献できるかをチェックしましょう。特に、買い手企業が国内や海外でどのような展開をしているかは、重要なポイントです。

新しい技術やサービスの保有:

買い手企業は、自社が保有する新しい技術やサービスを開示することが一般的です。売り手は、買い手企業がどのような技術やサービスを使って市場で差別化を図っているか、また自社の事業が買い手企業の技術やサービスとどのように相補的になるかをチェックしましょう。特に、買い手企業が革新的な技術やサービスを開発しているかは、重要なポイントです。

 

市場性・成長性は、買い手企業を見極める重要なポイントです。しかし、それだけでは十分ではありません。次に見るべきポイントは、文化・価値観の一致です。

 

 

見極めポイント③:文化・価値観の一致

買い手企業を見極める最後のポイントは、文化・価値観の一致です。自社の事業や従業員を引き継ぐ買い手企業は、自社と同じような文化や価値観を持っていることが望ましいです。そのため、以下のような点を確認する必要があります。

企業文化の互換性:

買い手企業は、自社の企業文化や組織風土を開示することが一般的です。売り手は、買い手企業の企業文化や組織風土が自社と互換性があるかどうかをチェックしましょう。特に、買い手企業の組織構造や意思決定プロセス、コミュニケーションスタイル、リーダーシップスタイルなどは、重要なポイントです。

従業員の満足度やモチベーション:

買い手企業は、自社の従業員の満足度やモチベーションを開示することが一般的です。売り手は、買い手企業の従業員の満足度やモチベーションが高いかどうかをチェックしましょう。特に、買い手企業の従業員の離職率や定着率、教育や研修制度、福利厚生制度などは、重要なポイントです。

 

社会的価値や企業のミッションの合致度:

買い手企業は、自社の社会的価値や企業のミッションを開示することが一般的です。売り手は、買い手企業の社会的価値や企業のミッションが自社と合致しているかどうかを判断しましょう。特に、買い手企業が社会的責任や環境問題に対してどのような姿勢を取っているかは、重要なポイントです。

 

文化・価値観の一致は、買い手企業を見極める最も難しいポイントです。しかし、それだけに重要な意味を持ちます。自社と買い手企業が文化・価値観で一致すれば、M&A後も円滑な関係を築くことができます。

 

以上で、買い手企業を見極めるポイントについて解説しました。最後に、M&Aのプロセスと戦略的な取り組みについて見ていきましょう。

 

 

M&Aのプロセスと戦略的な取り組み

買い手企業を見極めるポイントを押さえたら、次はM&Aのプロセスと戦略的な取り組みについて考える必要があります。M&Aは、単に契約書にサインするだけではなく、様々なステップや交渉を経る複雑なプロジェクトです。そのため、売り手としては、以下のようなポイントを押さえておく必要があります。

売り手としてのM&Aプロセスの概要:

売り手としてのM&Aプロセスは、大きく分けて以下のようなステップからなります。

 

  1. 準備段階:自社の事業や財務状況を整理し、M&Aの目的や条件を明確にする。専門家や仲介者と相談し、買い手企業の候補をリストアップする。
  2. 接触段階:買い手企業に接触し、自社の事業や価値をアピールする。買い手企業の関心度や条件を確認し、基本合意書を交わす。
  3. 調査段階:買い手企業によるデューデリジェンス(詳細調査)に応じる。自社の事業や財務状況、法務関連などを正確に開示する。
  4. 交渉段階:買収価格や支払い方法、保証条項などの最終的な条件を交渉する。株式(事業)譲渡契約書を作成し、署名する。
  5. 実行段階:契約書に基づいて、株式や資産の譲渡や支払いを行う。買い手企業との引き継ぎや連携を行う。

交渉のポイントや戦略:

M&Aでは、売り手と買い手はそれぞれ自分の利益を最大化しようとします。そのため、交渉は必ず発生します。交渉では、以下のようなポイントや戦略が有効です。

 

  • 自社の価値や強みを明確に伝える:自社の事業や財務状況、市場性・成長性、技術やサービスなどを具体的に示すことで、買収価格や条件を有利にすることができます。
  • 複数の買い手企業と交渉する:複数の買い手企業と交渉することで、競争原理を利用して、買収価格や条件を高めることができます。また、交渉力が低い場合は、専門家や仲介者に依頼することも有効です。
  • 柔軟に対応する:交渉では、予想外の事態が発生することもあります。そのため、柔軟に対応することが重要です。例えば、買収価格が下がる場合は、支払い方法や保証条項などで調整することができます。

 

M&Aは、売り手としても買い手としても、戦略的な取り組みが必要なプロジェクトです。そのため、買い手企業の選定だけでなく、M&Aのプロセスや交渉にも注意を払う必要があります。

 

 

まとめ:買い手企業を見極めるポイント

本記事では、中小企業のM&Aにおいて、売り手として買い手企業を見極めるポイントについて解説しました。M&Aは、自社の事業や従業員の将来に大きな影響を与える重要な経営判断です。そのため、以下のようなポイントを押さえておく必要があります。

 

  • 買い手企業の選定の重要性:適切な買収先を選定することで、自社の事業や従業員を引き継ぐことができるだけでなく、買収価格や条件も有利になる可能性が高まります。誤った選定をすると、自社の事業や従業員が維持されないかもしれないだけでなく、買収価格や条件も悪くなる可能性が高まります。
  • 買い手企業を見極めるポイント:買い手企業を見極めるポイントは、経営基盤と安定性、市場性・成長性、文化・価値観の一致の三つです。これらのポイントを確認することで、自社と買い手企業が長期的に良好な関係を築くことができます。
  • M&Aのプロセスと戦略的な取り組み:M&Aは、様々なステップや交渉を経る複雑なプロジェクトです。そのため、売り手としては、M&Aのプロセスや交渉にも戦略的に取り組む必要があります。自社の価値や強みを明確に伝えることや、複数の買い手企業と交渉することや、柔軟に対応することが有効です。

 

中小企業のM&Aは、売り手としても買い手としても、相手企業の特徴や条件をよく理解し、適切な判断をする必要があります。本記事が、中小企業のM&Aに関心のある方々にとって有益な情報になれば幸いです。

 

シニア・プライベートバンカー

平野 泰嗣

M&Aコンサルティング

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