スモールM&Aで買収先企業を見極めるポイント
はじめに
M&Aとは、企業の合併や買収のことで、事業の成長や競争力の強化などの目的で行われます。しかし、M&Aは大企業だけのものではありません。小規模な事業者も、M&Aを活用することで、事業承継や事業拡大のために有利な条件で他社と組むことができます。このような小規模なM&AをスモールM&Aと呼びます。
スモールM&Aでは、買収先企業の選定が重要です。買収先企業との相性が良ければ、スモールM&Aは成功につながりますが、そうでなければ、失敗に終わる可能性が高くなります。では、どのようにして買収先企業を見極めることができるのでしょうか。ここでは、買収先企業を見極めるポイントは、主に3つです。
- 企業価値の評価
- 事業内容や戦略の適合性
- 経営体制や文化の整合性
それぞれのポイントについて詳しく見ていきましょう。
企業価値の評価
買収先企業の価値を正しく把握することは、スモールM&Aにおいて最も基本的なステップです。買収先企業の価値を過大評価してしまえば、買収価格が高くなりすぎてしまいますし、逆に過小評価してしまえば、買収先企業から拒否されるか、他社に奪われる可能性があります。そこで、買収先企業の価値を客観的に分析するためには、複数の評価手法を用いて比較検討することが望ましいです。
代表的な評価手法としては、以下の3つが挙げられます。
インカムアプローチ
- 買収先企業が将来にわたって生み出すであろうキャッシュフローを割引現在価値法や内部収益率法などで現在価値に換算する手法です。
- 買収先企業の将来性や成長性を反映させることができますが、キャッシュフローの予測や割引率の設定には主観性が入りやすいというデメリットがあります。
マーケットアプローチ
- 買収先企業と同じ業界や規模の上場企業や過去に行われた同様のM&A事例を参考にして、買収先企業の株式や資産に対する倍率を算出する手法です。
- 市場の動向や相場感を反映させることができますが、比較対象となるデータが少ない場合や特殊な事情がある場合には適用しにくいというデメリットがあります。
コストアプローチ
- 買収先企業の資産や負債を時価に評価し、その差額を買収先企業の価値とする手法です。
- 買収先企業の現状を反映させることができますが、将来の収益力やシナジー効果を考慮できないというデメリットがあります。
これらの手法は、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。買収先企業の特性や目的に応じて最適な手法を選択することが重要です。また、可能であれば、複数の手法を併用して、買収先企業の価値を幅広く評価することもおすすめです。
事業内容や戦略の適合性
買収先企業の事業内容や戦略が自社と合致しているかどうかを検討することも、スモールM&Aにおいて重要なポイントです。買収先企業の事業内容や戦略が自社と一致していれば、スモールM&Aによって事業の拡大や強化が期待できますが、そうでなければ、事業の混乱や競合が発生する可能性があります。では、どのようにして買収先企業の事業内容や戦略を分析することができるのでしょうか。ここでは、SWOT分析やPEST分析などのフレームワークを活用することが有効です。
SWOT分析
- 買収先企業の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を分析するフレームワークです。
- 買収先企業の内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を整理し、自社とのシナジー効果や競合関係を評価することができます。
【SWOT分析の例】
※横にスクロールできます。
強み | 弱み | |
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内部環境 |
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機会 | 脅威 | |
外部環境 |
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PEST分析
- 買収先企業が直面する政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)の4つの要因を分析するフレームワークです。
- 買収先企業の外部環境における機会や脅威を把握し、自社との適合性や将来性を評価することができます。
【PEST分析の例】
※横にスクロールできます。
要因 | 機会 | 脅威 |
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政治 |
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経済 |
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社会 |
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技術 |
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これらのフレームワークは、買収先企業の事業内容や戦略を網羅的に分析することができます。買収先企業がどのような強みや弱みを持ち、どのような機会や脅威に直面しているかを把握することで、自社との適合性や将来性を評価することができます。また、自社と買収先企業との適合性や将来性を評価することができます。また、自社と買収先企業が共通に持つ強みや機会を活かし、相互に補完できる弱みや脅威を改善することで、スモールM&Aによるシナジー効果を最大化することもできます。
経営体制や文化の整合性
買収先企業の経営体制や文化が自社と調和しているかどうかを確認することも、スモールM&Aにおいて重要なポイントです。買収先企業の経営体制や文化が自社と一致していれば、スモールM&Aによって組織の統合や協力がスムーズに進みますが、そうでなければ、組織の摩擦や対立が発生する可能性があります。では、どのようにして買収先企業の経営体制や文化を把握することができるのでしょうか。ここでは、財務諸表や組織図だけでなく、現地視察や面談なども行うことが望ましいでしょう。
財務諸表
- 買収先企業の財務状況や業績を分析することで、経営体制の強さや弱さを評価することができます。
- 買収先企業の売上高や利益、資産や負債、キャッシュフローなどの財務指標を計算し、自社と比較することで、買収先企業の経営効率や収益性、財務安定性などを把握することができます。
- 財務諸表の分析は、買収先企業の経営体制の現状を反映させることができますが、将来の見通しや戦略などを考慮できないというデメリットがあります。
組織図
- 買収先企業の組織構造や役割分担を分析することで、経営体制の特徴や問題点を評価することができます。
- 買収先企業の部門や役職、人員配置などを確認し、自社と比較することで、買収先企業の組織規模や階層性、権限委譲度などを把握することができます。
- 組織図の分析は、買収先企業の経営体制の特徴を反映させることができますが、組織文化や人間関係などを考慮できないというデメリットがあります。
現地視察
- 買収先企業の現場を訪問し、実際に目に見えるものや聞こえるものを観察することで、経営体制や文化の雰囲気や実態を評価することができます。
- 買収先企業のオフィスや工場、店舗などを見学し、自社と比較することで、買収先企業の働き方や作業環境、サービスレベルなどを把握することができます。
- 現地視察は、買収先企業の経営体制や文化の雰囲気や実態を反映させることができますが、表面的なものに惑わされる可能性があるというデメリットがあります。
面談
- 買収先企業の経営陣や従業員と直接話すことで、経営体制や文化のビジョンや価値観を評価することができます。
- 買収先企業の代表者や幹部、一般社員などにインタビューし、自社と比較することで、買収先企業の目標や戦略、コミュニケーションスタイルやワークスタイルなどを把握することができます。
- 面談は、買収先企業の経営体制や文化のビジョンや価値観を反映させることができますが、正直に答えてくれるかどうかに依存するというデメリットがあります。
以上のように、買収先企業の経営体制や文化を把握するためには、財務諸表や組織図だけでなく、現地視察や面談なども行うことが望ましいです。買収先企業の経営陣や従業員のビジョンや価値観、コミュニケーションスタイルやワークスタイルなどを比較し、相違点や課題点を洗い出すことが重要です。また、自社と買収先企業が共通に持つ経営理念や組織文化を尊重し、相互に理解や信頼を深めることで、スモールM&Aによる組織の統合や協力を促進することもできます。
まとめ
スモールM&Aでは、買収先企業を見極めるポイントは3つあります。
- 企業価値の評価
- 事業内容や戦略の適合性
- 経営体制や文化の整合性
これらのポイントを踏まえて、買収先企業を選定することで、スモールM&Aの成功確率を高めることができます。スモールM&Aは、小規模ながらも大きな効果をもたらす可能性があります。自社の事業目標や成長戦略に合わせて、最適な買収先企業を見つけることができれば、スモールM&Aは有力な手段となるでしょう。
シニア・プライベートバンカー
平野 泰嗣