成年後見制度改正の見通しとファミリービジネスへの影響 ―意思決定構造の再設計という視点から― - ファミリービジネス マネージメントオフィス

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成年後見制度改正の見通しとファミリービジネスへの影響 ―意思決定構造の再設計という視点から―

カテゴリ: ファミリー(家族) 作成日:2026年03月31日(火)

家族のミッション・ステートメント(FMS)

 

 

成年後見制度改正とは?なぜ今見直しが進んでいるのか

高齢化の進展に伴い、「判断能力の低下」という問題は、個人の生活にとどまらず、企業経営にも影響を及ぼす重要なテーマとなっています。とりわけ、オーナー経営者が意思決定の中心にあるファミリービジネスにおいては、その影響はより直接的です。

 

こうした背景のもと、現在、成年後見制度の見直しが進められています。本稿では、制度改正の見通しを整理したうえで、その本質を読み解き、ファミリービジネスへの影響と実務的な対応について考察します。

 

 

成年後見制度改正の背景:高齢化・利用低迷・意思尊重

成年後見制度の見直しは、主に三つの要因によって要請されています。

 

第一に、高齢化の進展です。認知症や加齢により判断能力が低下する人は今後さらに増加すると見込まれており、財産管理や契約行為を支える仕組みの重要性は一層高まっています。

 

第二に、制度利用の伸び悩みです。成年後見制度は広く知られているものの、実際の利用は限定的にとどまっています。その背景には、制度の負担感や制限の広さなどが、利用をためらわせる要因として指摘されています。

 

第三に、本人意思尊重の流れです。近年の制度設計においては、単なる保護にとどまらず、本人の意思や選好を可能な限り尊重する方向性が重視されています。

 

family col 2b

 

 

改正のポイント:全面保護から必要な支援へ

今回の見直しの本質は、次の一言に集約されます。

「全面的に保護する制度」から「必要な支援を必要な範囲で組み合わせる制度」へ

 

現行制度では、判断能力の程度に応じて「後見・保佐・補助」という三類型が設けられており、それぞれについて一定の範囲で権限制限が定型的に定められる構造となっています。

 

これに対し、見直し案では、補助制度を中心とした柔軟な仕組みへの再構成が志向されており、支援の内容を個別に設計する方向性が示されています。

 

 

現行制度との違いを比較:何がどう変わるのか

生活・実務の観点から整理すると、違いは以下の通りです。

 

※横にスクロールできます。

観点現行制度改正後の方向性
制度構造 後見・保佐・補助の三類型 補助制度中心の柔軟な構造
支援範囲 類型ごとに定型的に設定 個別に設計
本人の自由 制限されやすい 必要最小限の制限
意思反映 限定的 明確に重視
制度の発想 能力基準 支援ニーズ基準

この変化は、「判断能力の程度」で制度を決める発想から、「何に困っているか」で支援を設計する発想への転換を意味します。

 

 

新しい補助制度でできることと限界

新たな補助制度の枠組みでは、例えば以下のような対応が想定されています。

 

  • 特定の契約について代理権を付与する
  • 重要な財産行為について同意・取消の仕組みを設ける
  • 必要に応じて補助人を付す

 

このように、必要な機能を選択的に組み合わせることが可能となる点は大きな特徴です。

一方で、制度の性質上、その支援は主として個別の法律行為を単位として設計されます。そのため、経営のように連続的かつ迅速な意思決定を求められる領域との間には、構造的なギャップが生じる可能性があります。

 

 

制度改正の本当の意味:できることとできないこと

今回の制度改正により、

  • 個別行為における支援の柔軟性は高まります
  • 本人意思の反映は強化されます

 

一方で、

  • 継続的な意思決定を十分に代替することは困難な場面が多い

と考えられます。

制度の役割と限界を正しく理解することが重要です。

 

 

ファミリービジネスへの影響:スリーサークルで考える

ファミリービジネスは、以下の三つの要素で構成されます。

 

  • 家族(Family)
  • 所有(Ownership)
  • 経営(Business)

 

いわゆるスリーサークルモデルです。

家族への影響:意思を支える存在へ

制度改正により、本人の意思尊重が明確化されることで、家族は単なる保護者ではなく、意思決定を支える主体としての役割を担うことになります。

所有への影響:資産管理の柔軟性

株式や不動産といった資産の管理・承継においては、代理権や同意権を個別に設計できる点が、実務上の選択肢を広げる可能性があります。

経営への影響:制度ではカバーできない領域

一方で、経営については事情が異なります。

経営は連続する意思決定の積み重ねであり、補助制度のような個別行為を前提とする仕組みだけでは、十分に対応しきれない場面が想定されます。

 

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最大のリスクは「意思決定の空白」

経営者が判断能力を失った場合に生じる可能性があるのは、「意思決定の空白」です。

 

  • 契約の締結が停滞する
  • 金融機関対応に支障が生じる
  • 投資や経営判断が遅延する

 

企業は形式上存続していても、実質的には機能低下に陥る可能性があります。

 

 

対策:経営は制度ではなく体制で守る

このリスクに対する本質的な対応は、制度だけに依存するのではなく、経営体制として備えることです。

具体的には、

 

  • 共同代表体制の導入
  • 権限分散の設計
  • 意思決定プロセスの明確化

 

といった取り組みが重要になります。

 

 

制度と経営の役割分担を整理する

実務上は、以下のような整理が有効です。

※横にスクロールできます。

領域対応手段
経営 共同代表・組織設計
所有 信託・株式設計
家族 合意形成
制度 補助・任意後見

制度は重要な基盤ですが、あくまで全体設計の一要素として位置づけることが適切です。

 

 

まとめ:成年後見制度改正が示す本質

成年後見制度の改正は、支援のあり方を柔軟化するものであり、その意義は大きいといえます。

しかし、ファミリービジネスにおいて本質的に問われるのは、制度そのものではありません。

「誰が意思決定を担うのか」という構造の設計です。

 

経営の継続性は、制度だけで担保されるものではなく、家族・所有・経営を横断した意思決定構造の設計によってこそ支えられます。その視点から、今回の制度改正を捉えることが重要です。

 

 

シニア・プライベートバンカー

平野 泰嗣

 

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